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テレビゲームの専門調査会社メディアクリエイトの代表、細川 敦によるコラム(第二回)

細川 敦の居待月

PS Vita 、Wii Uを見た、触った。
-2011年E3で感じたこと(前編・Wii U)-

2011年、E3を見てきた、自身としては数年ぶりのE3だ。筆者なりの印象をレポートしてみたい。特に、PlayStation Vita とWii Uという新型機についてカンファレンスや会場で感じたことを報告しよう。今回はWii U、次回はPS Vitaを取り上げる。

任天堂のカンファレンスにおいてWii Uで最初に示された映像は、テレビでWii Uをプレイしている最中、テレビ画面を野球番組に替えた際に、操作ひとつでタブレット型のコントローラーにゲーム画面が切り替わるシーンだ。そのまま継続してコンローラーでゲームを楽しむことができる。これが‘Switch from TV to New Controller’である。つまりは、リビングルームにおけるゲーム(機)とテレビの共存を最初にアピールしたことになる。

これは、同社がかつてから主張してきた、リビングや家庭やテレビからゲーム機が疎んじられないようにするというひとつの具体的な提示である。それだけ、任天堂はゲーム機が家庭から排除されることについて危機感を抱いているということだ。同社にとっての最大の脅威や警戒は、ソーシャルゲームやスマートフォンではなく、この点にあるということなのだろう。

リビングルームやテレビを取り巻く環境が変わり、据置型ゲーム機の存在自体が危うくなることへの危機感が感じられる映像だった。任天堂にとって据置型ゲーム機はリビングに置かれるべきものであり、ファミリー層が主体であるということになる。これは、Wiiで明確に示されたスタンスであり、コンセプトなのだ。これまでの岩田社長のメッセージでも多少の表現の違いはあれ、同じようなニュアンスが何度も述べられている。

カンファレンスの最後に示された‘Coming to your living room in 2012’は、まさにそれを象徴したメッセージだった。その意味で、Wii UはWiiからのキープコンセプトが根底にあるということだ。リビングにWii U、外出先での3DSという棲み分けも、意図としてはとても明確である。この点をしっかりと認識することが必要だ。

テレビをメイン画面、コントローラー内蔵のモニターをサブ画面としたということは、据置型でのダブルスクリーンの実現であり、それは文字どおりニンテンドーDSの特徴そのものである。携帯型では一体化された2つのスクリーンが、据置型でコントローラーとして分離されたことで、入力・出力を含めた多様な遊びが実現できる。一人でも、多人数でも遊びの幅が拡がる。これこそが、任天堂の提案する革新性ということなのだろう。

整理すると、Wii UはWiiのコンセプトを維持し、DSで成功を収めた2画面を採用することで、コンサバティブとイノベーションの両立をはかったマシンということができる。とても分かり易く正常で正当な進化形であり、その点について素直に好感をもった。

一方、控えめなアピールに終始したHD対応であるが、十分に高画質であり、PS3やXbox360と比較しても遜色ないレベルに達しており、それによって ゲームファンも取り込もうという意図がうかがえる。直感操作ができるコントローラーに十字キーや各ボタンを配したのも、その表れだろう。事実、サードパーティやゲームファンにアピールするデモ映像も多数流された。ビッグネームのクリエイターが登場しWii Uへの支持を表明したことも、アピールと同時に呼び水効果を期待してのことに違いない。EAのCEOであるリカテロ氏の登壇はサプライズだった。

Wiiでは十分に獲得が叶わなかったゲームファンを、Wii Uでは取りに行くという意思表示であり、これは十分に伝わったように思える。とはいえ、ビジネスとしてその必要を認めつつも、正直、違和感を覚えてしまった。ゲームファンの獲得、もしくは他機種からの奪取は3DSでも意図されたものだ。しかし現時点では、その狙いがうまくいっているとはいえない。  結局のところ、このチグハグさがWii Uの正当な進化を希薄なものにしてしまっていると感じた。ゲームファンの獲得、既存Wiiユーザーの活性化、回帰ユーザーの呼び戻し。すべてを叶えることは容易ではない。任天堂らしさを保ちつつ、任天堂のイメージを越える。Wii Uはそれを実現するための、従来以上の戦略商品である。

同時に、2画面としてメイン画面のテレビを必要としつつ、スクリーンという点でコントローラーだけで自己完結するという‘Free from TV’は、やはり「一体化」と「分離」という相反する要素を共に実現する試みでもある。

この2つのトレードオフの克服の成否は、今後の任天堂の方向性に大きな影響を与えると思われる。その点でも重要な戦略商品なのだ。それは、ゲームビジネスそのものにとっても同様だ。異なる2つを共に満たすことが、任天堂にとっての挑戦なのだ。その挑戦を静かに表明したのが、今回のE3でありカンファレンスだった。筆者はそう思っている。